SS¦キョウダイ
「〝姉君〟 俺の我儘……聞いてくださいますか?」
「えぇ、ステイルのお願いならなんだって叶えるわ」
いつものまぶしいような笑顔を向けられて眩暈がしそうになる。
「……ありがとうございます。では……」
(俺は)
「……俺の自室にいらしていただけますか?」
(この〝姉君〟の優しさにつけ込む)
(いつからだっただろうか)
――「ステイル!」
―――「ステイル……?」
―――――「ステイルだもの!」
城に来た頃は、綺麗で優しい女の子だと思っていた。
こんな人が僕の〝姉〟になるのだ、と。
(今思えば、最初のころからプライドの声色の中に異性を感じていた)
「ステイルの部屋にはいるのはいつぶりかしら?」
先ほどの廊下から一歩入った薄暗い俺の部屋の中で警戒心すら抱いていないように、
きょろきょろと辺りを見回している。
「〝姉君〟」
二人きりの時には名前を呼ぶことを許されているが、あえて〝姉君〟と呼ぶ。
「? なぁに? ステイル」
変わらない笑顔の中に少し心配そうな表情が見える。
「先ほどの我儘なんですが、」
他の者の前では緩まないように、引き締めていた表情を少し緩めて、プライドと距離を詰める。
「実は最近、夜になっても上手く寝ることができていな「そうなの?!」
言い終わる前に自ら詰めた距離より更にプライドの方からも詰められ、
あっという間に両頬をプライドの手のひらで包まれる。
(ほんとうにこの方は……)
「ごめんなさいね、もうすぐ生誕祭なのに。私の潜入捜査にまで付き合わせてしまって、」
気付いてあげられなくてごめんなさい、とおろおろと揺れた大きな瞳に覗き込まれる。
「……すみません。言い出せず…自分でも原因はわかっていて…」
包まれた両頬の手のひらを更に自分の手で包み、わざとらしく息を吐く。
すると案の定プライドは「原因……?」と疑問符を浮かべた。
「はい、恐らく。…潜入捜査で年齢を下げているせいか故郷が恋しくなってしまい…」
これも言いづらそうに最後まで言わずに、恥ずかしそうに目を伏せる。
(……だから俺みたいな奴につけ込まれるんだ……)
「……ッ! ステイル……」
プライドが包んでくれていた頬を更に自らに引き寄せ、コツンとおでこ同士が重なる。
「!!」
プライドの予想を超えた反応に思わず表情が緩みそうになってしまい、慌てて引き締める。
チラリと薄目を開けて、プライドの表情を盗み見れば思い詰めたように眉間に皺を寄せ、床を睨んでいた。
(あぁ……)
「なので、〝姉君〟になら我儘聞いてもらえるかと……」
おでこを少し離し、照れたような困ったような表情を作る。
「えぇ……! 私に出来ることならなんでも言って」
そのつり上がった凛々しい瞳に決意を宿して俺に答えてくれる。
「では……〝姉君〟……」
俺はまた表情を緩めて、
わざと〝弟〟らしく、無邪気に
「寝台に横になっていただけますか?」
〝姉君〟に我儘を言った。
弟を全開にして利用するズルいステイルくんが書きたくて
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